逆イールド波乱から回復、米株3日続伸の理由(NY特急便)

2019/8/20 6:47

米株式相場が景気後退懸念に揺れた「逆イールド・ショック」から急速に立ち直りつつある。19日にダウ工業株30種平均は3営業日連続で上昇し、7月中旬の4日続伸以来の連騰記録となった。10年債と2年債利回りの逆転現象はすでに解消され、市場では早くも「株買い推奨」が出始めている。底堅い米株相場を支えるのは、運用難に苦しむ長期投資家たちだ。

「非常に良い雰囲気だ」。米ジョーンズトレーディングの上場投資信託ETF)取引責任者、デイブ・ルッツは19日早朝、顧客向けメモで、トレーダーの間に広がる楽観ムードを伝えていた。中国人民銀行中央銀行)が打ち出した貸出金利引き下げ策が好感されたほか、華為技術(ファーウェイ)への米製品の禁輸措置の「例外措置」延長も米中交渉継続のサインとして、市場の強気姿勢に「ゴーサインを出した」(ルッツ氏)。

投資家心理は改善は「VIX指数」にも現れている。「恐怖指数」の異名を持つVIXは市場が予想する将来の相場変動率を示し、20を超えると、投資家の先行き警戒が強まったと判断される。14日に07年ぶりとなる「長短逆転」が発生すると、景気後退のシグナルとの受け止めから、米国株相場が急落。VIXも15日に一時24まで上昇したが、19日は16台半ばまで低下する場面があった。投資家がパニックに陥っている様子は全くない。

金融市場を揺らした長短金利差はすでに「正常化」している。19日もドイツの財政出動観測などを背景に長期債が売られ、長期債の利回りが短期債に比べて上昇し、再逆転はさらに遠のいた。「先週の株価変動は(逆イールドに売り反応した)アルゴリズム取引によるもの」(米ブッチャー・ジョセフ・アセット・マネジメントのケニー・ポルカリ氏)。長短金利差の正常化は、投機的な投資家の買い戻しを誘っている可能性がある。

もっとも米国株を買い支えたのは短期筋だけではない。ある米国株ファンドマネジャーは「ここから最後のリスク選好相場が始まる」と身構える。年金基金のような長期投資家は通常、資産の4割程度を債券に配分する。マイナス利回りの債券が世界で17兆ドル(約1800兆円)に迫るといわれるなか、運用目標を達成するには株式などリスク資産にマネーを振り向けざるをえない。

すでにその兆候は現れている。例えば電力など公益事業株で構成するETF「公益事業セレクト・セクターSPDR」。19日の米国株式市場で買いが集まり、上場来高値を更新した。電力やガス会社の業績は景気に左右されにくいうえ、高配当利回り銘柄で知られる。債券を買えなくなった長期投資家が、利回りを求めて殺到する様子がうかがえる。消去法的な買いがリスク資産の最後のひと上げを演出するわけだ。

「株価はまだ最高値更新の可能性がある」(米JPモルガン)、「9月の第1週に買うべきだ」(米バンクオブアメリカ・メリルリンチ)――。先週以来、ウォール街の金融機関からは、悩める長期投資家を「勇気づける言葉」が投げかけられている。危うさを抱えながらも、米株再起動の素地はできあがりつつあるようにみえる。