米中、なおも市場のリスク 関税先送りは「混乱」(NY特急便)

2019/8/14 5:25

13日の米株式相場は大幅反発した。米政府が13日朝、中国への追加関税の発動の一部を遅らせると発表し、米中対立や景気への不安が和らいだ。ただ、1日に表明した追加関税を唐突に変える措置だけに、この方針転換は多くの市場関係者に「政治的な混乱」と映った。米中対立の危うさをかえって浮き彫りにし、投資家は持ち高を傾けにくくなっている。

米通商代表部(USTR)が13日朝発表したのは、ほぼすべての中国製品に制裁関税を広げる「第4弾」の措置だ。1日の表明時点では、約3千億ドルの中国製品に9月1日から10%の関税を課すとしていた。だが、スマートフォンや玩具、衣類など特定の品目について12月15日に先送りするとした。トランプ大統領は年末商戦への影響をにらみ、「米国の消費者に与えうる影響を考えた」と語った。

市場に伝わったのは取引開始直後の午前9時45分ごろ。ダウ工業株30種平均は続落して始まったが、発表後に一時前日比529ドル高まで急上昇。終値は372ドル高の2万6279ドル(速報値)。アップルが4%高と相場をけん引したほか、家電量販店のベストバイや1ドルショップのダラーツリーも大きく上昇した。

動いたのは関税関連の株だけではない。長期金利原油価格は上昇し、安全資産とされる金や円は下落した。米中対立が泥沼化するという警戒が和らぎ、12日までのリスクオフの流れがひとまず巻き戻された。

だが、市場心理が一気に晴れたわけではない。UBSのシニアポートフォリオマネジャー、シェリー・ポール氏は移り気な米中交渉を「政治的混沌」と呼ぶ。予見できない政治リスクが市場を翻弄し、連日のように株価が乱高下している。株価の変動の大きさは運用上のリスクにほかならず、結果的に株価水準が戻ったとしても投資家はかつてのように株式に資金を振り向けづらくなっている。

振り回されるのは企業も同じだ。業績に直結する政策が短期間で右往左往すると生産や投資の計画もまともに立てられない。トランプ大統領が1日のようにツイッターで突如関税引き上げを再表明するリスクも排除できない。13日の関税発動先送りはアパレル業界などから歓迎の声があがったが、誰も先行きを展望できない状態だ。

株価は乱高下を繰り返しているが、企業の景況感は悪化傾向を続けている。米サプライマネジメント協会(ISM)の7月の製造業景況感指数は製造業、非製造業ともに約3年ぶりの低さとなった。追加関税第4弾の表明前の調査だが、「関税によってビジネス全体の傾向が弱くなっている」(電子機器メーカー)との声が多く出ていた。

バンクオブアメリカ・メリルリンチが13日公表した調査では「1年以内に世界経済が後退に陥る」と予想する投資家が34%にのぼった。これは2011年10月以来、約8年ぶりの高さだ。最大のリスクとして、51%もの投資家が「貿易戦争」を挙げた。

景気後退の兆しとされる「逆イールド」も近づいている。13日の米国債市場で長期金利は上昇したものの、10年債(1.68%)と2年債(1.66%)の利回り差は0.02%に縮み、逆イールドは目前だ。関税を先送りしても投資家の不安は根強く残っている。(ニューヨーク=後藤達也)