桐光学園、悲願のインハイVの理由 「西川頼み」を脱し、晴らした1年前の雪辱

鈴木監督「ウチは組織で戦うんだ」、光った粘り強い守備と下級生の頑張り
 桐光学園(神奈川県代表)の全国高校総体(インターハイ)初制覇は、ファイナルまで劇的過ぎた。

 準々決勝の西京(山口)戦と準決勝の京都橘(京都)戦は後半アディショナルタイム6分に、いずれもFW西川潤(3年)が決勝点をマーク。そして、1日の富山第一(富山)との決勝では後半アディショナルタイム8分、正真正銘のラストプレーで試合が動く。FW神田洸樹(3年)が力強い突破からシュートを決め、桐光学園が沖縄の熱い夏を制した。

 チームを率いた鈴木勝大監督は「言葉にならないくらい日本一を目指してやってきた」と感無量の様子。続けて「選手たちを本当によくやって頑張ってくれたし、彼らを信じてきた結果だと思う。難しい気候の中でも粘り強く守備ができたのはチームとしての成長で、得点した神田を筆頭に最後までフィジカルが落ちなかった」と勝因を語った。

 意外にもこれが全国初タイトルとなる桐光学園。かつて中村俊輔(現・横浜FC)を擁して臨んだ全国選手権は惜しくも準優勝に終わり、昨年のインターハイも決勝で山梨学院(山梨)に敗れて涙を呑んだ。栄冠が目の前に迫りながらも、あと一歩が遠かった。

 今年のチームをけん引したのが、セレッソ大阪への加入が内定している主将の西川であることに疑いの余地はない。前記した準々決勝、準決勝での土壇場の決勝ゴールは“役者”と呼ぶにふさわしく、チームが苦しい場面で活躍できる勝負強さはタレント性の証でもある。Jリーグデビューや飛び級でのU-20ワールドカップ出場を経て、精神的にもたくましくなった印象だ。

 しかし、鈴木監督は「どんな優れた個でも、組織には敵わない。ウチは組織で戦うんだ」と常日頃から選手に口酸っぱく言い聞かせている。その言葉に当てはめるとすれば、今年の桐光学園は西川頼みになるのではなく、組織としても卓越したチームだったと言える。

11人のうち5人が1、2年生、チームに活力をもたらす存在に
 光ったのは下級生の頑張りだ。決勝の先発に名を連ねた11人のうち3年生は約半分の6人で、残りの5人は2年生と1年生だった。彼らは先輩の背中を追いかけるだけでなく、時には追い越すほどの勢いでチームに活力をもたらした。

 2回戦からの全5試合にフル出場したDF奈良坂巧(2年)はヘディングに絶対の自信を持つ大型センターバック。それだけでなく西川が「うるさいくらいの時もある」と苦笑するほどの大声コーチングでチームメートを鼓舞していく。1年次からインターハイに出場していた経験が土台となり、今年に入って順調に成長している。

 スタメン唯一の1年生MF岩根祐哉はテクニカルな左足で攻撃にアクセントを加えた。決して技術だけの選手ではなく、終盤までタフに戦える点も大きな魅力。鈴木監督が「あいつ(岩根)の感性に周りがついてこられるようになれば」と高く評価するレフティーは、高校入学から半年もしないうちに初優勝メンバーになった。

 奈良坂が「桐光の初優勝の一員になったということは歴史に名を残せたということ。でもこれからはピッチ内外で注目を浴びるので、強い桐光で在り続けないといけない」と早くも先を見据えれば、岩根も「試合に出場できない3年生や、神奈川県に残っている3年生もいる。先輩の分までしっかりプレーするという責任があった。大会を通して優勝するチームの雰囲気や活動を肌で感じられた経験を、冬の選手権や来年のインターハイに生かしていきたい」と胸を張った。

 初の全国タイトルの余韻に浸っていられるのはわずかな時間だけ。鈴木監督は「インターハイ経由選手権を掲げている。選手権の借りは選手権でしか返せない」と語気を強める。大津(熊本県代表)に0-5という屈辱の大敗を喫した昨年の選手権は一生忘れない。西川だけではなく組織としても強い桐光学園は、全国初タイトルというこれ以上ない追い風を得て、今度は冬の選手権でのリベンジを目指す。

◇インターハイのサッカーは7月26日から8月1日まで熱戦が繰り広げられた。今大会は全国高体連公式インターハイ応援サイト「インハイTV」を展開。インターハイ全30競技の熱戦を無料で配信中。また、映像は試合終了後でもさかのぼって視聴でき、熱戦を振り返ることができる。

藤井雅彦 / Masahiko Fujii