米連邦準備制度理事会(FRB)が債券買い入れを縮小する計画に関する議論が絶えないなか、5年間にわたりかつてない景気刺激策が講じられてきたが、ついに金融政策の引き締めに向かい始めたと大方が考えている。
だが、これが脇道にそれただけのことだったならばどうだろう。さらに重要な流れは、世界的に金利が一段と下がりさえする展開で、金利が何年も何年も数十年間でさえも超低水準にとどまり、さらに大量の債券買い入れを行うことになるということだとしたらどうだろう。
これが今月、世界の政策担当者らの間で多くが示唆した点だ。これが正しければ、株式相場がさらに大きく上昇し金相場も上がると予想されるが、国際的に為替相場が緊張し、選別的に都市部の不動産価格が急騰し、この投機的な幸運に恵まれなかった向きからの政治的反発を呼ぶ可能性もある。
11月に入り、影響力のある有識者らが、さらに積極的な金融緩和を求めている。先進諸国の金利をゼロ近くにとどめ中央銀行のバランスシートを膨らませる政策を、恒久化するよう主張している。欧米諸国の数千万人にのぼる求職者を満足させることができない現状と、日本型デフレに陥る恐れのあるディスインフレ的傾向のいずれもが、良く考えても金融政策の「正常化」はずっと先のことだとする主張につながっている。
FRBの二人の上級研究員がそれぞれ独自に、FRBが利上げを開始する目安としている失業率の水準を、現在の6.5%から5.5%~5.75%に引き下げるべきだと主張した調査報告を発表し、まず話題を呼んだ。バーナンキFRB議長は19日夜、失業率が6.5%を下回った「かなり後まで」金利はゼロ近辺にとどまり得ると語り、FRBのフォワードガイダンス(金融政策の先行きの手掛かり)に目安の引き下げを盛り込む可能性があることを示唆した。
欧州中央銀行(ECB)も今月、指標とするレポ金利を予想外に引き下げた。その後、ECBのチーフエコノミストを務めるプラート専務理事はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、ECBは金利をマイナスにし、FRB型の資産買い入れを選択することもあり得ると語った。
こうした転換を裏付ける一大論拠の作成は、一時バーナンキ議長の後任として考えられた元米財務長官のローレンス・サマーズ氏の手に委ねられた。バーナンキFRB議長をはじめとする国際金融界の有力者が集まった国際通貨基金(IMF)の催しでサマーズ氏は、米経済は「長期的なスタグネーション(景気不振)」に陥っていると主張した。この結果、完全雇用を達成する理論的均衡点にあたる自然利子率はゼロを大きく下回り、おそらくマイナス2%かマイナス3%になっていると述べた。これはFRBの目標金利に対する「下限ゼロの縛り」を回避して、一段と積極的な政策が必要だとするあけすけな言い方だ。サマーズ氏の発言は、ニューヨーク・タイムズでのポール・クルーグマン氏(プリンストン大学教授)やフィナンシャル・タイムズでのギャビン・デービス氏(フルクラム・アセット・マネジメント会長)のブログなどで、著名評論家に暖かく受け入れられた。
これは将来の金融政策にどのような意味を持つだろう。バーナンキ議長とサマーズ氏が講演後のやりとりのなかで議論したように、財政政策が理想的な解決策だろう。これには、インフラ(社会基盤)整備計画に対する歳出上限目標の即時撤廃や米国と欧州における包括的緊縮措置の停止、医療保障と社会保障に対する政府の長期的責任を減らすことなども含まれる可能性がある。
だが、多くの国々では、現在の政治情勢がこうした賢明な解決方法を不可能にしている。その代わりに、中央銀行はさらに大量の債券買い入れを行い、インフレを高めるために名目国内総生産(GDP)の目標を設定する方策を検討するかもしれない。
金融市場に対する影響については、過去5年間を振り返ってみるだけで十分だろう。大きな勝ち組が生まれるだろうが、大きな負け組もできてくるだろう。
まず、株式投資家は喜ぶだろう。これで株式がバブルの域に迫っているとの主張に反論できる。何年間もの低金利が約束されることで、将来の配当の現在価値を計算する割引率が低くなり、さらに高い株価評価につながるという論理だ。
次に、ドルは下がるが円とユーロも下落するだろう。3大中央銀行が供給した過剰流動性が、より高い利回りを求めて新興国に向かうためだ。新興国は、経済情勢が厳しいために、比較的金利水準が高い。こうした「ホットマネー」が新興国に流入すると輸出企業からの働きかけが強まり、新興諸国の中央銀行が自国通貨の相場を下げるために介入し、「通貨戦争」が再燃するだろう。
また、商品(コモディティー)相場もまた上昇するだろう。中央銀行が貨幣価値を落としていると考える投資家からの需要が復活し、特に金相場は反発するだろう。しかし、中国経済が減速し建設主導から消費主導の成長に移っているので、産業向け商品に関しては、投機的需要が強い商品と根本的に需要が弱い商品との間に緊張が生まれ、不安定な値動きにつながるだろう。
そして、土地が少なく人気の高い地域では住宅価格が上がり続けるだろう。ニューヨークやロンドン、香港、上海、サンパウロなどの国際都市では住宅がさらに値上がりするだろうが、多くの国々では二番手の中心地域でも上がるだろう。
全員がこの上げ潮に乗るならば、万事問題ないだろう。だが、恒久的な金融緩和政策は各国経済の内部と各国間にある隔たりをさらに拡大するだろう。美術作品を過去最高値で落札できるような、金融市場の進展から利益を得る数少ない人々と、そうでない人々との格差は広がるだろう。
消費者物価指数(CPI)は否定できないほど低く、それが恒久的金融緩和を求める理由にもなっているのだが、資産インフレが現実の人間的な問題だということはお分かりの通りだ。大都市における住宅価格の上昇はCPIに反映されないが、自宅を持ちたいと考えている人々の購買力を大きく圧迫している。対照的に自家保有者はプラスの「資産効果」を享受しているが、一般的にそれに見合った金額で消費を増やしてはいない。これは世界的に富の格差が広がり続けている現れで、これを金融緩和策から切り離すことはできない。
こうした状況においては、「二つのニューヨーク」の格差是正を掲げて市長選を闘ったビル・デブラシオ氏のような政治的勝者が増えるだろう。だが、政治的な解決が単に地域的なものにとどまり全体に広がらないならば、この一大景気不振を助長している世界的不均衡がもたらす緊張は払しょくされないだろう。