悲願の初優勝。桐光学園が夏の王者となった舞台裏

 天才パサーの中村俊輔を擁しても、世代屈指の点取り屋・小川航基が前線に構えていても掴めなかった日本一の称号。インターハイ、選手権ともに準優勝止まりだった桐光学園が初の頂点に輝いた。

 終わってみれば、5試合で5得点・1失点。C大阪入団内定の西川潤が準々決勝と準決勝の終了間際に決勝点を挙げるなど3得点の活躍でエースの重責を果たした。守っても、2年生のGK北村公平、CB奈良坂巧が奮戦。6日間で5試合を戦う過密日程のため、チーム全体で思うように足が動かない場面もあったが、粘り強く戦って勝利を手繰り寄せた。

 では、“シルバーコレクター”だった桐光学園が優勝を成し遂げられたのか。シンプルに昨年の経験値が生かされていたからだろう。

 今年のチームは、昨年の準優勝メンバーが多い。GK北村、MF佐々木ムライヨセフ、中村洸太、FW西川が決勝に出場。出番こそなかったものの、ベンチ入りを果たした奈良坂もあと一歩で逃した悔しさを味わっている。彼らを中心に夏の戦い方を他のメンバーに伝え、最善の準備をどう行っていくか。その1点にフォーカスし、一体となって大会を挑んでいた。

 例えば、試合後のクールダウンは自前でポリバケツを用意し、水を張って簡易プールを設置。そこに浸かり、早急に体を冷やした。また、サポートメンバーの働きも大きい。帯同していた4名と女子マネージャー1名も、チームのために身を粉にした。クーリングブレイクやハーフタイムには選手のユニフォームを乾かす作業や、ドリンクの準備を真っ先に行ってメンバーをバックアップ。応援に回った生徒たちも力強い声で彼らの戦いを後押しした。

 そうした彼らの取り組みに鈴木勝大監督も目を細め、「僕がよく眠れて、スタッフが準備をしてくれたので、安定して試合に挑めた。本当に感謝をしています」と冗談を交えながらも、フォア・ザ・チームに徹した彼らに賛辞を送った。

 その一方で指揮官自身も昨年の経験を生かしてアプローチの方法を変えたという。

 昨年も決勝まで勝ち上がったが、優勝を意識する声掛けを多くした点を悔やんだ。そこで今回はあくまで自然体で試合に挑めるように言葉を投げかけた。

 「どうしても優勝が目の前に見えていたので、僕の声かけも優勝するぞというものになり過ぎていたのかなと。そういう意味では初戦も決勝も同じスタンスで挑もうと伝えてきたので、彼らが24時間しかない中でルーティンを変えずにどの試合でもやってくれた。それが、こういう結果に繋がった要因です」

 思い返せば、今年はキャプテンの西川が開幕当初からC大阪の練習やU-20日本代表の活動に参加していたため、チーム作りが難航。4バックでスタートするも、途中から3バックを導入するなど、メンバーもなかなか固められなかった。3枚で守って、両ウイングバックの攻撃力と最前線に陣取る西川の個を生かす。その戦い方が固まったのもインターハイの県予選中だった。

 そうした逆境を跳ね除け、一戦ごとに逞しくなった桐光学園。「本当に準優勝で終わることは多々あって、それは監督も試合前に言っていましたし、準優勝はもういい。もう優勝しかないぞと。そういう意味では優勝できて安心できています」とは西川の言葉。昨年は後半のアディショナルタイムに同点に追い付かれ、延長戦で屈した。あれから1年。見事に勝ち切れるチームに生まれ変わり、チームの総合力で頂点に立った。彼らの成長を示す初優勝だったのは間違いない。