高3FW西川潤、久保建英の背中を追う。 「僕には悔しさをぶつける場所がある」

 インターハイ神奈川県予選準決勝。

 激しい雨が降る中、相模原ギオンスタジアムで行われた桐光学園高校vs.日大藤沢高校の一戦。

 注目のストライカー西川潤(3年)擁する桐光学園が、延長戦を含めた100分間の激闘の末に1-0の勝利を収め、2年連続となるインターハイ出場を手にした。

「おそらく“日本一忙しい高校生”だと思います。4つの異なる場所でのプレーは、環境が目まぐるしく変わりますし、心身ともに相当な負担はあると思います。ですが、ここを抜けたら、見えてくる世界は一気に変わるのでは」

 視察に来ていたC大阪の関係者もこう口にするほど、西川は目まぐるしい変化の中に身を置いている。

4つのカテゴリーでプレー。
 昨年はU-16日本代表のエースストライカーとして、マレーシアで開催されたAFC U-16選手権で優勝(大会MVP)。3月にはC大阪への2020年シーズン加入内定が発表されると、特別指定選手としてすぐにルヴァンカップ、さらにJ1リーグ第7節・北海道コンサドーレ札幌戦に出場した。香川真司南野拓実よりも早い、クラブ史上2番目の若さでJリーグデビューだった。

 また、昨年12月にはU-20W杯出場を控えたU-19日本代表のブラジル遠征に初招集され、それ以降U-20日本代表に定着。W杯本大会メンバーにも選出され、ポーランドではスタメンの2試合を含む、3試合に出場した。

 “本業”の桐光学園では1年から10番を背負い続け、今季からはキャプテンに就任。まさに日本一忙しい高校生だ。

「正直、きつさを感じることはあります。環境が変わるのはもちろん、立場や戦術は違うし、周りの選手のレベルも違う。その変化に惑わされることなく、自分を持ち続けながら、順応するために戦術、仲間に合わせるプレーを身につけないといけない。このサイクルを繰り返せば力もついていくと思うけど、今はしんどさを感じることは正直あります」

 日大藤沢戦後、メインスタンド下のコンコースの端っこで、桐光学園の水色のジャージを着た彼は、正直な胸の内を明かしてくれた。

飛び級で招集されたU-20W杯。
 側から見れば、常に注目を浴び、華やかな舞台を踏んでいる特別な選手に見えるかもしれない。だが、彼はまだ17歳の高校3年生だ。大人でも混乱してしまいそう環境の中で、彼は変化を敏感に感じ取り、時には壁に当たりながら、懸命にもがき、前に進もうとしている。

桐光学園に入学して、1年から10番、U-16日本代表でも10番を背負わせてもらって、それはそれでプレッシャーを感じていました。

 ですが、今年に入ってからのプレッシャーや責任感はそれまでと大きく異なるものでした。U-20日本代表に選ばれた当初は、年齢的にも一番下で『周りに自分の良さを分かってもらおう』と、自分の特徴を出すことを意識していました。上のカテゴリーでやるのが初めてだったし、Jリーグで活躍する選手たちと一緒にやれるのは刺激になった。楽しかったけど……」

 陸上トラックを挟んだピッチでは、すでに第2試合の東海大相模高校vs.三浦学苑高校の試合が始まっていた。ピッチやスタンドからこだまする歓声を耳にしながら、西川はさらに自分の想いをゆっくりと語り始めた。

「責任を感じすぎてしまった」
「……いざ正式にU-20W杯メンバーに選ばれてからは、楽しさよりも責任にフォーカスを当ててしまった。自分の良さを出そう、出せたという楽しみから一転して、『日本代表として恥じないプレーをしないといけない』と思いすぎて、自分を苦しめていた。

 セレッソでは(チームに)ずっといることができない悩みがあって、試合に出れそうだなと思ったら、高校に戻る。次に帯同するときはまた1からチャンスを掴みとらないといけない。自分の中で難しさを感じています。

 高校に戻ればキャプテンだし、特に今年は1年でプリンスリーグ関東に戻らないといけない(昨季プリンスリーグ関東から神奈川県リーグ1部に降格)。インターハイと選手権で全国優勝をしたい気持ちも強い。だけど、(セレッソや代表活動との行ったり来たりで)なかなかチームにいられなくて、キャプテンとしての責任を果たせているかというと、そうじゃない……」

 そんな苦しさを吐露する中で、今年10月にはU-17W杯が始まる。

「そこでは(早生まれなので)最年長組としてチームを引っ張っていかないといけない。本当に心も身体もきちんと整えて挑まないと、どれも中途半端になってしまうんです」

無力さを痛感した日韓戦。
 次々と沸き起こる葛藤の中で、彼にとって強烈に心に残る出来事があった。U-20W杯で敗れた韓国戦だ。

「日本代表の一員として責任を感じたし、ここで活躍したいという気持ちが強すぎた。ボールが足につかなかったことも感じていたし、韓国戦は『行かなきゃいけない』という気持ちが強すぎてファールが多くなってしまって、自分でも空回りしていると感じていました」

 それでも西川はこの試合でチャンスに絡んでいた。

 44分に左サイドを突破したFW宮代大聖の動きに反応し、折り返しに対してゴール前に飛び込んだ。「ヘディングをするにはボールが低かったので、お腹で押し込むイメージだった」が、ボールがうまくミートせず、DFにブロックされた。続く63分はボールキープから宮代にマイナスの折り返しを送り、69分にもDF3人を引きつけると、内側を上がってきたMF藤本寛也にパスをつないでチャンスを演出した。

 だが、いずれもゴールにつながらなかった。

 0-1で迎えた89分に訪れた最後のチャンスも、クロスを相手DFに当ててしまい、ふいにした。

「クロスの時、(相手のマークを)外してからすぐに上げないと相手の足が出てくる。仕掛ける時も加速しないといけないのに、うまく対応されてしまった。特に(韓国の10番の)イ・カンインには自分のプレーと心理状況を見透かされてしまっていたように感じました」

 4試合中3試合に出場し、ノーゴール。結果を残せず、失意のまま日本に帰国をした。帰りの飛行機の中で西川は複雑な想いを巡らせていた。

「もしこれがA代表だったら……」
「細かいプレーが勝敗を分けるんだなと。『何がダメだったのか?』『どうすればよかったのか?』と考えているけど、まだ答えが出ていません。気負いすぎずに、楽しむべきところをうまく整理してやれていなかった。単純に自分の実力が足りなかったと考えるのか、コンディションのせいなのか、環境の変化で疲弊していた自分がいたのか。それはまだ分からないし、それを言い訳にしたくないという自分もいる。考えることは多いです」

 モヤモヤを抱えたまま、C大阪桐光学園、そしてこれからはU-17日本代表として新たなスタートを切らないといけない。辛かったのは帰国してからだった。

「日本へ帰ってきて、周りからは『どうだった?』と聞かれることが多くて……。友達からも『調子が良くなさそうだったけど』と聞かれても、『そうだね……』としか言えなかった。経験した人にしかわからない難しさもあるとは思うけど、でも周りの人からそう見えるのなら仕方がないことですし。

 それに僕は見ていませんけど、ネットやSNSなどで『なぜ西川を使っているのか?』とか、『アジアMVPなのに』などと書かれていることが、嫌でも耳に入ってきた。仕方がないと分かっていましたけど、悔しいというか、ここまで言われたのは初めてで。プロの世界はこういう世界だなと感じた。

 もしこれがA代表だったら……、もうとんでもないことになるのだろうなと。上の選手は物凄い世界で戦っているんだなと思った。そう思うと、そこに行くためにこんなことで落ち込んでいてはダメだし、絶対に見返すという気持ちになっています」

バルセロナBの獲得リストに?
 西川は苦しみながらも、着実に気持ちは前に向いている。そして強くなっている。

 裏を返せば、彼がそういう精神性があるからこそ、さまざまなカテゴリーでプレーする環境を与えられている。それだけ期待も大きいと言える。

「どの環境でもメンタル的に崩れないようにやる。自分の良さを出して、ぶれずにプレーする。この気持ちを持ってやり続ければ、間違いなくタフさは身につくし、それで得た自信や経験は来年のセレッソやその先に絶対に生きて来ると思う。今も正直苦しいけど、その先には必ず成長した自分があると信じています。だからこそ、崩れない、崩さないで、どんなことがあっても前向きに捉えてやっていきたいと思います」

 6月24日には、コパ・アメリカに参加している前田大然と安部裕葵の2人とともに、バルセロナBの獲得リストに挙げていることが報道され、西川の注目度はさらに上がった。

 これによって葛藤が生まれるだろう。より崩れない、崩さないメンタリティーが必要になってくる。

「僕には悔しさをぶつけられる場所がある」
「インターハイ、U-17W杯、高校選手権、そしてセレッソと、僕にはU-20W杯で味わった悔しさをぶつけられる場所がたくさんある。注目されるのは分かっているけど、僕は決してナンバーワンではない。僕の前には同学年の久保建英がいるし、韓国の完敗したイ・カンインもいる。他にも自分より上が沢山いるのに、高3でこの経験が出来ていることを、後に振り返ったときに、『良かった』と思えるようにしないといけないと思っています」

 最後に西川は決意を固めたかのように、キリッとした表情で前を向いてこう語ると、別れ際に一礼をして去っていった。

 外の雨はなかなか降り止まない。

 スタジアムの脇の閑散としたスペースで、真摯にかつ正直に想いを口にする西川潤の姿をこの目に焼き付けておこうと思った。葛藤と希望を抱えた“日本一忙しい高校生”のありのままの姿を――。