11月20日(ブルームバーグ):ことしの日本の新規株式公開(IPO)市場は、10月までに登場した全社の初値が公開価格を上回っている。リーマン・ショック後に冷え込んだ企業の上場意欲も回復傾向で、12月のIPO予定社数は2007年3月以来の高水準になりそう。年内の初値上昇が続き、勝率10割となれば、2000年以降では初めてとなる。
埼玉県で工務店を経営する個人投資家の山口幸雄さん(40)は、「公募株を手に入れれば、短期間でほぼ確実に利益を上げられるIPO銘柄の魅力は非常に大きい」と指摘。ただ、6月以降はほぼ全銘柄のブックビルディングに参加しているが、今のところ抽選で外れてばかり。5度あった補欠当選も繰り上げ当選には至らず、「なかなか手に入りにくいプラチナチケットだ」と嘆く。
国内IPOの復調は、安倍政権の誕生と経済政策、いわゆる「アベノミクス」への期待と評価で為替市場で円安が進行、それに連れて日本株も上昇し、投資家と経営者双方の心理が株式に向いた点が大きい。5月におよそ5年半ぶりの高値を付けた日経平均株価は、一時的な急落ともみ合いを経て、15日時点の年初来上昇率は46%と先進国の主要24指数の中でトップの座を維持する。相場が弱含んだ中でも、需給のもつれが少ないIPO銘柄には個人など短期的な値幅取り資金が流入した。
昨年12月20日上場のシュッピンとユーグレナに始まり、ことし10月22日に上場したシステム情報まで、36社連続で初値が公開価格を上回っている。初値上昇の連続記録は、06年3-6月の39社以来。13年に上場した銘柄の初値上昇率は平均2.3倍に達する。
年末までこの記録が続けば、年間勝率は10割で、少なくとも2000年以降では初となる。19日に上場した女性向け衣料販売のANAPも人気化し、公開価格の1000円に対し2.3倍の2300円買い気配のまま初日の取引を終えた。ことしは、10月までに上場した32社のうちで足元の株価が公開価格を上回るのは26社。初値を上回って推移するのは11銘柄だ。
来年は年間70-80社上場と野村予想
例年年の瀬は、年内の駆け込みでIPO件数が集中する。アベノミクス相場初動の昨年も、12月は14社と単月では07年6月に並ぶ多さだった。ことしはこれまで16社の公開が明らかになっており、23社が上場した07年3月以来の水準に達するのは必至。野村証券公開引受部の倉本敬治次長は、12月は20社弱、13年年間で60社程度とみている。
倉本氏は、IPOの活発化について「景気回復に対する期待感から、上場を考える企業が増えてきたのが1つ」と分析。また、相場好転で「当初想定していたより資金調達が期待でき、既存株主にとってより多くの利益を回収できるということもあり、IPOに向け準備を始める会社もある」と言う。14年もIPO件数の増加傾向は続き、「来年には70-80程度になりそう」と同氏は予想している。
プロ向け市場を含む国内IPO件数は、ライブドア事件やリーマン・ショックの影響で09年に19社まで落ち込んだが、10年は22社、11年37社、12年48社と回復傾向。ことしは10月までに36社が登場、11月は5社、12月は既に16社が予定し、4年連続で増える見通しだ。
真のアベノミクス効果、15年鮮明化も
3月に新規上場し、野菜のインターネット通販を手掛けるオイシックスでは、アベノミクス相場の始まりと改善しつつあったIPO市場が上場の「最終決断を後押ししたのは間違いない」と長谷川哲也取締役は振り返る。上場前の2月に投資家を回った際は、「反応がすごく良く、資金も集まりやすかった」そうだ。
オイシックスは、前期(13年3月期)中のIPOを目標に準備をしてきたため、素早く上場できたが、こうした企業は少数派。一般的には、公開準備から実際の上場まで2-3年程度はかかり、アベノミクスで上場意欲を刺激された企業群が本格的に登場してくるのは15年前後になるとみられる。
IPOウオッチャーで知られる金融情報会社、東京IPOの西堀敬編集長は証券、証券印刷会社からのヒアリングを通じ、新規上場社数は「再来年には100社に乗せる可能性もある」との認識を示した。もっとも、「リーマン・ショック前に150-200社前後あった過去のレンジ、日本経済の規模からすれば、まだまだ下振れた水準」としている。
機関投資家も視線
三菱UFJ投信の内田浩二チーフファンドマネジャーは、「IPOブームは「まだしばらくモメンタム(勢い)を維持するだろう」と予測する。ことしの公開銘柄についても、多くが「興味深いビジネスアイデアを持ち、魅力的で将来の成長に期待できる」と評価した。
6月にジャスダックに上場したリプロセルは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)用の研究試薬を手掛け、ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授にも培養液を提供する。公開価格3200円の5.6倍に当たる1万7800円の初値を付け、上昇率は06年12月に上場したeBASEの6.4倍以来の大きさを記録した。8月に上場した訪問看護のN・フィールド、10月に上場した省電力支援サービスのエナリスも特徴的な事業内容が注目を集め、初値上昇率は2倍を超えた。
IPO銘柄には中小規模、新興系企業が多いため、おのずと投資家層も個人中心となっているが、野村証の倉本氏によれば、「数年前なら動かなかった機関投資家が、最近は規模的に小さい銘柄でも値上がり期待を持ち、積極的に買ってきている」と言う。ブルームバーグ・データによると、Nフィルドの大株主にはフィデリティ投信(保有比率8.84%)、JPモルガン・アセット・マネジメント(同5.88%)が並び、3月上場のブロードリーフにもニッセイアセットマネジメント、インベスコ投信投資顧問が名を連ねる。
小粒中心、悪役登場に注意
足元のIPO市場が活況、回復との評価に少し違和感があるとするのは東京IPOの西堀氏。全般的に、上場銘柄が小粒という点が背景にある。大和住銀投信投資顧問の苦瓜達郎シニア・ファンドマネジャーも、ここ数年は新規上場する企業の規模が小さく、投資しても道理にかなう、セカンダリー・マーケット(流通市場)まで粘れるような会社が減っている、との見方だ。
また、初値高騰の影響で「公開価格が上がり、バリュエーションは切り上がっている」ため、魅力・妙味が落ちてきたと苦瓜氏。仮条件の上限なら投資しようと考え、書類を準備していた案件もあったが、「主幹事が価格を上げたことで、投資をやめた」と明かす。IPOが集中する12月に、市場からの資金吸収額が必要以上に大きく、公開価格が割高といった悪役が登場し、公開価格割れを起こせば、「雰囲気が変わり、その後引きずる可能性もある」と同氏は警戒している。