[東京 31日 ロイター] 経済産業省の専門委員会が打ち出した電力小売り全面自由化と発送電分離の2大改革は、東京電力<9501.T>管内が主戦場となりそうだ。電力事業は技術面や資金面で新規参入が困難だったため、同社を含め地域独占が温存されたきた。しかし、1兆円の公的資本注入で31日に実質国有化された東電は当分の間、需給ひっ迫のための投資が困難になる可能性が高い。ガスや石油などエネルギー大手、他地域の電力会社などが東電の穴を埋めるような投資に動けば、電力市場の競争が本格化する可能性がある。
<電力業界、全面自由化を容認>
「競争促進、自由化について我々も取り組む」──。中部電力<9502.T>の勝野哲・専務執行役員は、7月13日に開かれた経済産業省の「電力システム改革専門委員会」の会合でこう表明した。委員会では、一般家庭を含めて電力を自由に販売できるようにする小売り全面自由化と、大手電力(一般電気事業者10社)が一体で手掛ける発電・販売事業と送配電事業の事業運営を切り離す「発送電分離」を実施するという基本方針が打ち出された。
オブザーバーとして専門委員会に参加した勝野氏の発言は、電力業界が長年、反対し続けてきた発送電分離を事実上、容認する姿勢に転じた節目の瞬間だった。今後、経産省のスタッフが中心となり年末をめどに詳細な制度設計に入る。電気事業法など必要な法改正をいつ行い、新制度がいつから始まるのかは未定だ。
<参入困難な電力産業>
電力事業は新規参入のハードルが極めて高い。技術的な難易度が高いこと、本格的な発電所の建設だと少なくとも数百億円を要する投資額の大きさ、構想から運転開始までに5年から10年単位を要する時間軸の長さなど参入困難な要因には事欠かない。火力発電所の場合、液化天然ガス(LNG)や石炭など燃料調達も解決が必要な課題となる。
技術面でとりわけ高い壁は、電力供給で生産量と消費量を常に一致させなくてはならないこと。需給がずれると周波数が変動し、周波数変動が一定幅を超えると需要家側の生産設備に不具合が起こるといった「電気の質」に影響する。新電力が特定の顧客に供給する場合や大手電力が営業区域を越えて最終需要家に供給(越境供給)する場合、30分単位で需給を合わせる「同時同量」が求められ、不足分が3%を超えるとかなり割高な調整料金(インバランス料金)を支払う必要がある。
さらにビジネスモデルを確立する難しさも影響し、2000年3月に始まった電力小売りの部分自由化は対象を段階的に拡大したものの、新電力が獲得したシェア(自由化市場)は3%止まり。同時に可能になった大手電力による越境供給も実例は1件だけだった。過去の反省を踏まえ、経産省の専門委が今回示した改革基本方針では、競争を阻害していると批判の絶えない現行インバランス制度の廃止など、制度改革が実効を上げるようないくつかの仕掛けを盛り込んだ。
<東電管内で先行する本格的な競争>
とはいえ、実業界が電力ビジネスに新たな収益獲得の可能性を見出さない限り、制度改革でどのような工夫を凝らしても徒労に終わってしまう。果たして改革の起爆剤となるような動きが水面下で起きているのか。
経産省の専門委員会に参加した伊藤敏憲氏は、ロイターの取材で、今後の電力市場の競争について「結果的に起こらなくてはいけない地域がある。ここ(東電管内)だ」と強調した。UBS証券アナリストなどを経た後、独立して調査とコンサルティングを手掛ける伊藤氏は「東電は今後、十分に投資ができなくなる。(東電管内の)供給力不足が続くので、エネルギー事業者としては当然、投資しないといけない環境になる」と語った。
東電は、運転開始から30年以上が経過し更新が必要になってくる高経年化火力設備を1850万キロワット抱える。この分だけで東北電力<9506.T>の発電設備を超える規模だ。しかし、原発事故の賠償対応や福島原発の安定化・廃炉作業に追われている東電は、供給力増強のための設備投資を十分に行うことができない可能性が高い。このため再建計画(総合特別事業計画)には老朽火力設備を売却したり、他企業と共同で火力設備を更新し、その際の主導権をパートナー企業に握らせるプランが盛り込まれている。
ある政府関係者は「都市ガス、商社、石油、鉄鋼などがパートナーとして参加することに関心を示している」と話す。他の大手電力が東電管内で発電所を建設するプランを検討しているとの観測もある。東電の営業区域は国内最大の電力市場だけに、供給不足が長期化すれば、それに応じて投資が動き出す市場メカニズムが働くことになる。
電力業界では地域独占が半世紀以上続いた結果、市場メカニズムが働くことで古い設備のスクラップ・アンド・ビルドが十分に進まなかった。東電において、古い火力設備が大規模に残ってるのは競争が進まなかった結果とえいる。伊藤氏は「発電所や発電ユニット単位の競争を起こす必要性を言い続けてきた。コスト競争力があるユニットが残れば結果として供給コストが下がり、そのメリットが国民に行き渡る」と強調した。